私はつい4、5年前にその存在を知ったのですが、この大きな玉子焼きはたいへん由緒あるもので、時は王子が遊山行楽の地として王子稲荷参詣や滝浴みなどに賑わっていた江戸時代にまで遡ります。音無川付近には料亭が軒を連ねていたそうで、その中でも特に美味しいと評判で、当時の料理屋番付にも上がっていたのが料亭「扇屋」。古典落語の「王子の狐」の舞台にもなっており、蜀山人の歌や随筆にも登場するほどの盛況ぶりだったようです。これが、その扇屋名物「釜焼玉子」、料理屋のお土産物の始まりとも言われている立派な折詰の玉子焼きなんです。卵16個を使い、8人前ほどの量があります。開国後、外国人から習った調理法を応用し、溶き卵を注いだ鍋の上に鉄板で蓋をし、炭火を乗せ、下からの火とともに蒸し上げられています。一子相伝の技術は料亭なき後も当時のまま15代目・早船武利ご主人が屋号とともに守り続けていらっしゃいます。お正月に皆さんでいかがでしょう。

<釜焼玉子(要確認/要予約)>